女子生徒からのSOSに、対応できなかった私
私は、大学卒業後に、私立の女子高校の教員になりました。
私立だったせいか、反抗する生徒も少なく、「こら!スカートの丈が短いよ」と注意するくらいで、
毎日、生徒たちと友達のようにして過ごしていました。
数ヶ月経ったある日、よく話しかけてくる生徒の女の子が、ふらっと放課後、職員室に私を訪ねてきたのです。ちょうど、部活の時間帯で、職員室に教員は私しかいませんでした。
その女子生徒は、「切っちゃった」とカッターか何かで傷をつけた手首を私の前に差し出したのです。
私は、言葉を失い、頭が真っ白になりました。
平静を装って「保健室に行こうか」と誘うと、女子生徒は素直に頷き、一緒に保健室までついてきました。私は頭の中で『何か言わなければ』とグルグルと考えていましたが、何も言えずにいました。
大学で、こういう時の対応は習わなかった…。私の精一杯の言い訳です。
「助けて」というサインを出している生徒はたくさんいた
私は、教員の役目は、生徒に勉強を教え、将来それぞれが輝ける道へ導くことだと思っていました。
しかし、注意深く周囲を見渡すと、家にも学校にも居場所がない「孤独」であったり、「助けを求めている」高校生たちは、たくさんいたのです。
保健室の先生の話を伺うと、体調不良で保健室を訪れる生徒の多くは、精神的にも不調な生徒が多いとのこと。しかし、多くの教員はそれに気づかず、「ほら、サボらないで授業に出なさい」「部活を休んじゃだめだよ」と、心のSOSに耳を傾けないことが、度々あるようです。
どこまでが教員の仕事なのか…
「生徒の精神状態まで把握するのは難しい」「それは教員の役割ではない」とおっしゃる教員の方もいらっしゃるかと思います。
ただ、多くの子どもたちは、家と学校にしか居場所がありません。
そして、1日の多くを学校で過ごします。
私は、生徒の笑顔の裏に隠された「SOS」を、きちんと受け取れる教員になりたいと思いました。
子ども時代に、大人に「助けて、と伝えたら、助けてもらえた」という経験をすることは、
彼らが大人に成長する上で、きっと大きな支えになると信じています。
心理学をしっかり学び、心のケアもできる教員を目指します
このような理由で、私は正規の教員から非常勤の教員となり、現在、通信の大学に通いつつ、心理学を学んでいます。
公認心理師の資格を取り、少しでも生徒たちの心に寄り添える教員になりたいのです。
スクールカウンセラーの先生方とも、心理学のお話ができるようになればいいなと思っています。
今後、学業だけではなく、生徒の心にも関心を持つ教員が増えることを願っています。
著者:現役教員 タカハシさん
大学卒業後、都内の女子校(高等部)の社会科教師として勤務。
生徒たちとの関わりを通じ、少しでも生徒の心に寄り添える教員を目指し、通信の大学(心理学部)へ編入。公認心理師資格を目指して勉強中。
趣味はカフェ巡りと、写真を撮ること。